2015.12.09

He Did It His Way…

少々大げさになりますが、ニューヨークタイムズを読んでいると今年に入ってから、特に夏ごろからは Obama という名前よりも多く紙面に登場しているのではないか、と思われる人物がいます。ヒラリー・クリントンでも、ドナルド・トランプでもなく、既に他界して17年以上が経っているその人物は、今年生誕100周年を迎えたフランク・シナトラです。Frank Sinatra-color-Capitol Photo Archives_1彼は「20世紀最高・最大のエンターテイナー」と言われているとおり、音楽界だけでなく映画界でも大活躍し、いまだに語り継がれるさまざまな逸話も多い人ですが、今年は100周年にあたって彼を記念したいろいろなイベントが世界規模で目白押しになっています。特に彼の母国アメリカでは記念コンサートや展覧会の類いの開催のみならず、さまざまな回顧本や記念グッズ、未発表音源等も次々に発売されていて、古くからのシナトラファナティックの一人としては今年は出費が増えて困っている(?)といった具合です。

シナトラは、日本では “My Way”、”New York, New York” や、古くは “Polka Dots and Moonbeams” や “Strangers In The Night” 等のヒットのためかポピュラー歌手としてのイメージが強いようですが、彼のシンガーとしての神髄はカウント・ベイシーなどのビッグバンドをバックに従え、抜群のスイング感で歌う “The Lady Is A Tramp”、”Luck Be A Lady”、”Come Fly With Me” などのジャジーなナンバーの数々に見ることができますし、それは彼がそもそもジャズシンガーとしてキャリアをスタートさせ、生涯それを追求し続けたことにほかならないからだと思います。

彼はコンサートのリハーサルやレコーディング時には、伴奏をするビッグバンドやオーケストラに対して自分自身で曲想や演奏の仕方に注文をつけ、徹底的なまでに曲の仕上がりにこだわりを持っていたことはつとに有名で、レコーディング時の1曲のテイク数が20を超えることなどザラにあったそうです。また、作曲者・作詞者のみならず、曲のアレンジャーを非常に大切にしていたこともよく知られており、コンサートでは歌う曲目の紹介をする時には必ずアレンジャーの名前も添えることは忘れませんでした。

歌詞を丁寧に扱うことにも徹底していましたが、特にコンサートでは繰り返しで歌う節があると1回目と2回目とでは歌詞をちょっとアドリブ的に変えたり(That’s why the lady is a tramp という歌詞を2回目は、That’s why this chick is a tramp という風に)、同じ歌詞で歌うならば2回目は歌い方を変えてみたりと、まさにジャズシンガーとしての真骨頂が遺憾なく発揮され、その「粋」を存分に感じることができます。sintra_jackdanielsそんな彼のコンサートは、いわゆる司会者は別に立てず、コンサート中は彼自身がステージ上のすべてを仕切ることがほとんどで、しかも2時間かそれ以上のコンサートを休憩無しで一気に行うのが通例でした。そのため、普通なら休憩が入るような時間帯に10分か15分程度、シナトラがハイチェアなどに座っていろんな冗談を交えながら “おしゃべり” をする時間が必ず有りました。このハイチェアのすぐ側には小さなテーブルがあり、その上にはクリスタルガラスのデキャンターとグラスが置いてありました。デキャンターの中身は必ずJack Daniel’s Old No.7でした。シナトラはおしゃべりの時間になるとこれをグラスに注ぎ、チビチビと飲みながら、時にはタバコに火を付けてくつろぎながら話を続けるのでした。彼がこのスタイルを始めたのは1940年代後半からで、それ以降は亡くなるまでの半世紀にわたって変えることはありませんでした。

こうしてみると、シナトラはいろんな物事に「こだわりの人」だったことが窺い知れますが、そのどれをも貫き通したということにまた「粋」を感じますね。

ちなみに、シナトラが生涯こよなく愛したOld No.7のバーボンウィスキーは、彼が亡くなったとき、フラスクに満たされて棺に入れられ、彼とともに埋葬されています。正に彼がコンサートでおしゃべりのあとに歌う定番の1曲だった “One More For The Road” を地で行った格好です。IMG_0476このウィスキーを生産するJack Daniel蒸留所は今年、シナトラ100周年記念として特別に仕上げた限定品の “Sinatra Select” というウィスキーを発売しました。原酒は通常のNo.7と同じなのですが、特別にオーク樽の内側を強く焼いて溝を付けた専用の “シナトラバレル” で熟成させた限定品で、値段は175ドルもしますがモノ好きやファナティックにとってはプライスレス(?)。(最近さらに限定100樽の “Sinatra Century” なるウィスキーの発売も発表されましたが、こちらは何と500ドルだとか!)

さて、このSinatra Selectボトルの封を切る日は・・もちろん12月12日、シナトラの100歳の誕生日。

彼のレコードに針を落とし、粋に味わってみるとしましょう・・曲は “Nice ‘N Easy” で。

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