2012.08.23

大地の芸術祭

20120823_01お盆休みを利用して越後妻有アートトリエンナーレに行ってきました。トリエンナーレとは3年に1度開催される国際的な美術展のことですが、1990年代後半ごろより日本でも増えてきており、ひとたび目を向けると、日本中で実に様々な現代美術展が開催されている事が分かります。私自身もこれまで横浜トリエンナーレや瀬戸内国際芸術祭など見てきました。作品に対する予備知識がそれほどなくても、感覚的要素で楽しめる、それが現代アートの醍醐味かもしれません。

新潟県の十日町市・津南町を中心とした東京23区と同等の大きさの広い地域にアート作品が点在しています。新潟の山間とあって、過疎化、少子高齢化を深刻な問題としている地域に、アートを切り口にした町おこしのプロジェクトとして、この祭典は2000年に始まりました。恒久作品と今回新たに作られた作品が入り混じって新しい視点を呼び覚ましてくれます。
3日間の日程で、鑑賞パスポートを購入し、数え切れない作品を回りました。初日は主要作品を巡るバスツアーを利用し、2日目はレンタサイクルで約40kmの道のりを走り、最終日は電車やバス、タクシーを使って回りました。作品の1つとなっているキャンプ村に宿泊したのも面白い体験でした。ここで紹介しきれないほど魅力的な作品が多いのですが、一部ご紹介します。

 

◆最後の教室
20120823_2この地域ではいくつもの学校が廃校となっていますが、この作品もその廃校を舞台にし、「人間の不在」を表現しています。教室や体育館に置かれたオブジェは死を思わせ、暗い校舎を恐る恐る巡っていると、理科室からは心臓の鼓動のような音が聞こえてきて、肝試しのような気分になりますが、不在によって、人々が残した痕跡があぶりだされるような作品です。

 

◆風の音
20120823_3 20120823_4作品があることを示した立て看板に導かれ、急な山道を200mほど上ると一気に視界が開け、やわらかい風鈴の音が聞こえてきました。数えきれない風鈴が木に取りつけられ、風が音を奏でる空間は居心地がよくて、いつまでも聞いていたいと思うほどでした。ふいに背中の曲がった地元のおばあさんがこの広場を足早に通り過ぎ、この土地の人々の生活と作品が融合していることを感じさせました。

 

◆棚田
20120823_5 20120823_6農舞台というアートスペースから、稲作に関する詩と棚田に置かれた彫刻を棚田の背景に重ね合わせて見る、ウクライナのアーティストによる作品です。この田んぼの持ち主は作品として使われる事に当初強く躊躇したようですが、アーティストが説得を重ね、実現したそうです。

 

◆光の館
20120823_7ジェームス・タレルというアーティストが光を表現した家です。光が美しく取り入れられるように設計され、メインとなる畳張りの部屋の正方形に切り取られた天井を仰向けになって眺めると、まるでそれが絵画作品の様に空の表情をまざまざと感じることができます。この家は一定の人数で貸切で宿泊することも可能で、一晩中、光の変化を体感することができる作品なのです。

作品は地域の伝統がモチーフになったものや、使われなくなった民家や廃校が舞台になっているものが中心です。風景に溶け込み、車で走っていては見落としてしまいそうな作品もあります。周辺住民の理解を得るのは時間がかかったそうですが、アートとして取り上げられることで、この地域の特徴や魅力の再発見につながっていて、地域再生の面白い試みだと感じます。20120823_9 20120823_10 20120823_11 20120823_12 20120823_13 20120823_14

最後に星峠という集落の美しい棚田を眺め、これも自然の中で人が作り上げた芸術作品だなと思いながら、この棚田を守っている人々のことを尊く感じました。20120823_8

公開されている作品は全部で367点あるそうで、3日間ではとても見きれず、後ろ髪をひかれながら越後を後にしました。来年は瀬戸内国際芸術祭やあいちトリエンナーレなどの大型イベントも予定されています。地域の新たな魅力を探しに、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう?

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