Quality vs Speed その1
ヨーロッパの繊維産業は、日本や中国等の大量生産される海外製品にマーケットを奪われて、廃業に追いやられてしまった企業も多くありました。
しかし、昔と同じような方法で生産を続けている工場がまだ残っている事を発見。アイルランドのDonegalにあるMagee社の工場を見学させて貰いました。 創業1866年ですから、145年間も続く老舗。アイリッシュツィードの好きな方はおそらくこのメーカーの名前は聞いた事があると思います。
地元で生産されるウールや、麻などを原材料にして織物を作っているのですが、創業時から使われているような機械があったりしてどう見ても生産性が良いとは言えませんが、発送先のラベルを見ると誰もが知っているブランドのメーカーが使っている事が分かります。
製造担当者の話を聞くと、中国製や日本製は彼等の生産する10倍、もしくは100倍ぐらいの量をこなさないとペイしないのだそうで、ヨーロッパの高級ブティックのために作っている製品はロットも少ない割には細かな注文が多く、それだけにコンピュータ化され自動的に織られる製品では数十メートル単位でのオーダーには対応できない訳です。営業の担当も細かな打ち合わせをする為にデザイナーの元を訪れたり、サンプルを交換しあって客の求めている製品を作り上げます。
当然、このように手間をかけて作られる製品ですから、値段も高く維持できるんだそうです。
良く考えてみれば、我々の仕事も海外の関係者と30分のミーティングの為に長い時間をかけて移動するので、このビジネススタイルには共感が持てます。 連絡を取ろうとすればメール一本でも繋がるわけですが、その場に行かないと分からないニュアンスもある訳ですし、直接訪問すると目的以外の情報が入手出来たりそれ以上の収穫があります。
個人的には新しい携帯電話が2倍の通信速度だと言われれば買い替えたり、10分でも早く到着する移動手段を考えて行動していますが、お付き合いやコミュニケーションには長い時間を過ごす必要を、ゆっくりと織り上げられる生地を見ながら再認識しました。